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2013年3月10日 (日)

「声をかくす人」

ロバート・レッドフォード監督の「声をかくす人」、先月京都シネマにて見てきました。アメリカで女性として初めて絞首刑に処せられてのは、リンカーン大統領暗殺の共犯者だということは、一般的な知識として知っていたが、その人、メアリー・サラットがどういう経過を経て絞首刑の判決を受けるに至ったかは全く知りませんでした。映画のメアリーの言動や思いはフィクションかもしれないけれど、その裁判の様相は史実をもとにして描かれたものだろうと思います。たとえ被告の罪状がどうあれ、被告に対する国民感情がどうあれ、法に基づいて裁くべきこと、法曹人は復讐ではなくて、真実を明らかにすることに力を注がなければならないというメッセージが込められた、ヒューマンな映画でした。傑作だと思います。「女性」ということが良くも悪くも特別視されていた時代の女性の被告の扱いはジェンダー的な視点から興味深い。また、彼女をはじめ、リンカーン暗殺犯が裁かれたのは軍法会議で、そのことには当時も批判があったそうですが、その処刑から1年後の1866年、合衆国最高裁判所は戦時でも民間人を軍法会議で裁くのを禁じたということです。

 主人公は図らずもメアリー・サラットを弁護しなければならない破目に陥る若き弁護士フレデリック・エイキン(ジェイムズ・マカヴォイ)。映画は南北戦争の激戦地の描写から始まり、フレデリックは北軍大尉として戦友たちの命を救い、戦後は英雄と讃えられていました。リンカーン大統領暗殺の報に接し、フレデリックも怒りをたぎらせますが、彼の法律事務所の上司で、元司法長官のリヴァディ・ジョンソン上院議員(トム・ウィルキンソン)は、暗殺を共謀したと告発されたメアリー・サラット(ロビン・ライト)の弁護を命じます。暗殺犯を憎むフレデリックは断ります。断り切れずひきうけるもやる気のおきないフレデリック。しかし生来真面目なフレデリックは、彼女に接し、真実を探るうちにこの弁護に打ち込むようになります。けれども、当時リンカーン暗殺の共犯をかばうような行動をとることは政府も世間も敵に回すのと同じこと。検察側の証人の嘘をフレデリックが見抜いてもそれは隠蔽され、フレデリックが見つけてきた証人は裁判ではその言を翻します。世間からは非難され、元北軍の英雄という栄誉も剥奪されます。恋人からも友人からも、リヴァディ・ジョンソンからさえ忠告を受けますが、フレデリックは追及をやめません。

 この映画は、私にはメアリー・サラットの物語というより、フレデリックの物語、それを通して、正義とは何かということや、司法が国家権力から独立して判断することの大切さを描いているというように思えました。そういう意味で、NHKのドキュメンタリーやドラマにもなった、吉田久弁護士について書かれた新潮新書の『気骨の判決』を思い出しました。

実は「声をかくす人」を観たのは「アルバート氏の人生」を観たときの付録のようなものだったのですが(私は、「でかけたついで」に映画館はしごをよくします)、実際に観た感じはこっちの方がすばらしくて、はしごして大正解でした。ジェイムズ・マカヴォイの演技も良かったですし。

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2013年3月 9日 (土)

「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」

「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」、1月の終わりに観た映画です。

 インドで動物園を経営していた家族が、動物園を廃業し、一家でインドからカナダへ移住しようとしますが、その船が沈没し、唯一生き残った少年がトラとともに半年以上大洋を漂流する・・・という話です。海の光景(TVCMでもその一端が紹介されていましたね)がとても美しく、また、漂着したしまでのミーアキャットの群なども目を見張るものがあって、ぜったい、11部門ノミネートされていた第85回アカデミー賞では「視覚効果賞」受賞するに違いない、と思っていました。結果は、監督賞、作曲賞、撮影賞、視覚効果賞の4部門も受賞しましたね。アカデミー賞は個人的には「レ・ミゼラブル」に作品賞・主演男優賞も取ってほしかったのですが、次に自分の中で推していたのがこの「ライフ・オブ・パイ」だったので、監督賞の受賞は妥当、というか嬉しい気がしました。

 さて、概略を上に述べましたが、もう少し詳しくご紹介します。原作小説もそうですが、映画も作家がカナダのインド系移民の家を訪ねて冒険譚を聞くという体裁になっています。主人公はフランスのプールにちなんで名づけられたピシン。インドのフランス領だった地域に住んでいて、家族は大きな動物園を経営しています。 (ところで「幸せへのキセキ」でもそうでしたが・・・外国では私設…しかも個人経営…の大きな動物園って結構あるんでしょうか?日本では寡聞にして大きな動物園って言うと公営公設で、施設動物園は猛獣がいない小規模のようなものか、遊園地に動物展示が数等併設されているものしか知りませんが)
 
ピシンの名は、家族同然の付き合いをしていた水泳選手(彼と親しかったことが、のちにピシン=パイの命を救います)がフランスのプールについて家族に語ったことから付けられた名前ですが、発音がおしっこを意味する言葉と似ているため、学校でからかいの的となっていました。そこでピシンは一計を案じ、新学期には「家ではパイ(Pi=π)と呼ばれている」と自己紹介し、円周率を何桁も黒板に書き連ねることで呼び名をパイと改称することに成功します。映画はパイの子ども時代のエピソードとして、動物園のトラに近づきすぎて父親に激しく叱られるシーンも挿入されます。後の運命への伏線でしょうか・

 やがて動物園の経営が立ち行かなくなり、動物は売って、一家(パイ・兄・父母)はカナダへ移民します。動物たちもカナダの業者あるいは動物園等に売ったのか、同じ日本系の貨物船でカナダに向かうのですが、この船のコックは、ベジタリアンであるパイの母親に暴言を吐いたりする、高圧的な嫌な男でした。嵐によって船は難破し家族の中で唯一泳げるパイだけが救命ボートまでたどり着きます。船員たちも救命ボートに乗り込もうとしていたのですが、結局翌朝ボートに乗っていたのはパイとけがをしたシマウマ、そして恐ろしいトラだけ。そこへオラウータンも流れ着き、長く苦しい漂流生活が始まります。最初はおとぎ話的展開があるのかとも思いましたが、そうではなく、パイの生きるためのギリギリの闘いの様子が描かれます。先にも書いたように海の映像がとても美しい。私は2Dで観たのですが、2Dでも十分に迫力がありました。
 8か月近くにもなる長い漂流生活ののち、パイは助けられますが日本の保険会社からの聞き取りに際して、ビックリするような「事実」が明かされて・・・・最後には、また作家に大人になったパイが物語っているシーンで終わります。

 目を瞠るシーンの多い、余韻の残るドラマです。小説版の方は、映像の手助けがない分、最初がちょっと気持ちが入り込みにくいのですが、しばらく読み進むうちに自分も興が乗ってきます。やはり面白く読めました。

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