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2008年7月16日 (水)

『血と砂~愛と死のアラビア』サトクリフ著

 宝塚・花組のミュージカル「愛と死のアラビア」の原作です。(このミュージカルの感想はここここに書いてあります)ミュージカルが面白かったので観劇してからすぐ読みました(感想を書くのは時間が空いてしまいましたが)。

血と砂 上―愛と死のアラビア (1) 『血と砂~愛と死のアラビア~』上・下 ローズマリー・サトクリフ著 原書房刊。サトクリフといえばスコットランド・ケルト関係のYA向け歴史・時代小説の名手としてつとに有名ですが、私はちょっと苦手で、いろいろな本を読みかけては挫折していました。、翻訳の文体のせいかもしれませんが・・・。でも、今回は夢中になってわくわくハラハラドキドキしながら読めました。ミュージカルのストーリーは原作の三分の一ほどでしょうか。・・・じつはあのあとにさらに波瀾万丈の冒険譚が繰り広げられるのです。
 ミュージカルに興味のない人も読んでくださっているかもしれないので、舞台とは離れて本の紹介を。

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 「アラビアのロレンス」の時代をさかのぼること一世紀。1807年から物語は始まります。イギリスのオスマン・トルコ侵攻に参戦した、スコットランド高地78連隊に所属する20歳のトマス・キースが主人公です。トマスは実在の人物で、フランス陸軍で鍛えられた祖父の薫陶と鉄砲鍛治の修行により、剣も馬も銃も、部隊でも有数の使い手でしたが、負傷して捕虜となり、やがてエジプト太守ムハンマド・アリーにベドウィン兵の訓練将校として仕えることになります。トマスは、オスマン・トルコ軍の将校などアラビア人たちとともに戦い、親交を結びますが、とりわけザイド・イブ・フセインという非正規軍の隊長とムハンマド・アリーの次男トゥスンとは深い友情で結ばれます。ザイドにアラビア語やコーランについて学んでいたトマスはある日砂漠でキリスト教もイスラム教も、結局神はひとりなのだと悟り、改宗してアラビア人になりきる道を選びますが・・・。
 上下巻合わせて600ページを超える長編小説で、まさに「事実は小説よりも奇なり」のドラマティックな物語ですが、トマスのアラビアでの人生はわずか8年。8年の間に、いかに19世紀初頭の動乱の只中にあったとはいえ、普通の男が何年もの人生経験にはるかに倍する経験をして、異国に若き命を散らしたトマス。故郷を出奔し、捕虜になり、戦士として活躍し、友情を育み、改宗し、馬盗人を捕らえ、エジプト軍で活躍し、マルムーク人と決闘し、死刑を宣告され、太守の娘に言い寄られ、断ったことで彼女の恨みを買い、先の決闘の逆恨みも合わせて夜襲に遭い、たったひとりで8人の刺客を討ち果たして・・・そこまででもまだ上巻のみ。エジプトからアラビアへ遠征し、トゥスンを助けて城市攻略の闘いに挑むのが下巻。若くしてイスラムの重要な都市メディナの総督にも任命されます。最期はトゥスンを助けてのワッハーブ派との戦いです。下巻は特に舞台化しにくいストーリーですね。日本ではともかく、改宗の解釈など宗教的な絡みが欧米や中東では難しいかもしれませんが、ぜひ映画化してほしい。「アラビアのロレンス」を越える超大作歴史映画として観てみたいです。

 宝塚花組のミュージカル「愛と死のアラビア」では「ロッホ・ローモンド」と「スコットランドの釣鐘草(美しき)」の2曲のスコットランド民謡が効果的に使われていましたが、小説ではトマスの歌うスコットランドの伝統的な歌として、「乳兄弟」という詩が、載っています。この曲、本当にあるのなら聞いてみたいです。

   またミュージカル「愛と死のアラビア」の話に戻って・・・Le Cing (ル・サンク) 2008年 06月号 [雑誌] 」買ったんですが、とっても残念なことにシナリオが掲載されていませんでした。原作とあわせて細かいところをチェックしたかったのですが・・・、まぁしかたがありません。「歌劇7月号」の楽屋取材も原作を読んだ後に読むと、舞台だけの印象で読むより深く楽しめる気がします。同誌のスタッフルームでも原作との違いを製作者側(谷正純氏)が、小説との違いに少し触れていますが、読書好きの私としては、特に原作のある作品については、こういう製作意図のような記事がもっと充実しているとうれしいな。

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 TCAの音楽配信により楽曲もGETして聴いています。アラビア的な旋律のつもりなのか半音が多用されている曲(「黄金の砂漠」「砂漠に舞う異国のハヤブサ」「砂漠の赤い月」等・・・歌いにくそう)もあるかと思えば、「ベドウィン・砂漠の民」なんて日本民謡風。音楽だけ聴くのもなかなか楽しい曲想の流れですね。でもちょっと物足りない。大作ミュージカルだけではなく一幕もののオリジナルミュージカルも全編せりふ入りのライブCDでの発売または音楽配信してほしいな、と思います。。

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2008年7月13日 (日)

「ザ・マジックアワー」

 まるで舞台作品を観にいった時のように、客席でなんども爆笑が起こり、エンドロールが始まったら拍手がおこる・・・そんな体験を映画館で初めてしたような気がします。子ども向きのアニメで歓声があがるとき以外では。

 ザ・マジックアワー オリジナルサウンドトラック三谷幸喜監督の「ザ・マジックアワー 」 。今年の邦画の最高傑作といってもよいのではないでしょうか??これを観にいったのは蒸し暑い6月の午後でしたが、ほんとに笑って笑って・・・、ウィークデーに積み重なったストレスが一掃されました。

 **ストーリー(敬称略)**架空の港町「守加護」のホテルの一部屋。クラブ・赤い靴の支配人備後(妻夫木聡)と幼馴染の元クラブ歌手マリ(深津絵里)の愛のひと時に入った邪魔は、町を牛耳るボス・天塩(西田敏行)の子分たち(寺島進・甲本雅裕)。マリはボスの愛人だったのだ。足をコンクリートで固めて海に沈められそうになった備後は、口からでまかせにデラ富樫という男とは仲がよいのだとつぶやく。デラ富樫は、伝説の殺し屋で、敵対する江洞商会のボス(香川照之)をけん制するために天塩が手を尽くして探しているのだが、素顔や素性を知っている者がなく、つなぎが取れなかったのだ・・・。デラ富樫をつれてきたら命を贖えると、いったんは解放された備後だが、本当はデラ富樫など知らない。窮地の備後はクラブのバーテンダー・鹿間父子(伊吹五郎・綾瀬はるか)と一計を案じる。・・・・ 場面は変わって映画の撮影所。ホンモノの市川崑監督(出演後すぐにお亡くなりになったんですね・・・)が、スター・磐田とおる役に中井貴一、スターを撃つ女の役に天海祐希をつかって映画撮影中。売れない俳優の村田(佐藤浩市)は磐田のスタントで撃たれてビルから落ちる役を熱演する。備後は村田に目をつけ、村田とマネージャー(小日向文世)に、新作映画でデラ富樫という殺し屋の役をやってもらいたいとのオファーを持ちかける。半信半疑な村田とまったく疑ってかかっているマネージャーを何とか引き連れて守加護にもどってくるが・・・。

 だまされた村田が、本物のギャングたちの前で、とんでもなく濃ゆ~~い殺し屋を演じるのがとても面白いし、双方についたうそがまれないように備後があたふたするところ、備後のバックアップのため、鹿間親子がまじめな顔で奮闘するところ・・・などとても面白く、笑ううちにも、製作者が仕掛けている数々のくすぐり・・・名作映画へのオマージュとか、パンフレットに「奇跡のスタッフワーク」と紹介されている細かな仕掛けとか、映画の撮影所風景や、村田のオールタイムBestOneの映画「暗黒街の用心棒」なども・・・、俳優さんたちの凝った演技などに目を奪われ、最後までダレる瞬間が一秒もなくハイテンションで楽しめます。「名作映画へのオマージュ」というのは、あちこちの映画評で書かれているような、日本映画だけではなく外国の映画もあれこれ使われているようです。たとえば、階段に座ってはとに餌をやるおばあさんは、「メアリー・ポピンズ」の「Feed the birds」 のシーンですよね。「two pence」がロンドンの下町では「tuppence 」タプンスと発音されるという発見がうれしかった記憶のあるシーンです。私にははっきりとオマージュだと確信できるシーンはそんなにありませんでしたが、コアな映画ファンだと長いリストが作れるぐらいなのではないでしょうか??人一倍楽しめることでしょうね・・・。

 最後にいたるまで楽しさと驚きで彩られた映画でした。ネタバレでストーリーと人物を全部たどって書いてしまいたい衝動に駆られてしまいます。

Photo ←映画館にあった立看板?記念撮影用かな??あまりに楽しいので掲載してしまいました。

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2008年7月 9日 (水)

「ジャンパー」・・・映画と原作

ジャンパー (特別編)映画「ジャンパー」を観に行ってからもう3ヶ月もた ってしまいました・・・。もうDVDが販売される時期になってしまいました。観たり読んだりしたものの感想を書き残しておきたくてはじめたブログですが、書いてると夢中になってついつい長い記事になってしまい、結果的に読む時間が少なくなる・・・という問題が生じますね。マンガなどすぐ読めてしまうので、記事に書いていない本がたまってくると「書かなきゃ」的なプレッシャーもあるし・・・。でも書いておきたいし・・・。なかなか難しいものです。まぁでも、ボチボチ書いていきたいと思っています。さて、映画「ジャンパー」の話に戻ります。ワタクシ的にはとっても面白かったです。~~テレポーテーションというモチーフ自体の面白さもさることながら、主人公のデヴィッド(ヘイデン・クリステンセン)に初めてジャンプ能力が顕現するシチュエーションが今日的・アメリカ的だと思いました。ネタばれです・・・学校の中で異質ゆえにはじかれ、生命さえも危険にさらされて、あるいは父からの虐待に耐え切れず~~異能を発揮して逃走する。ジャンプした先=おそらく彼にとってもっとも好きで安心できる場所が公共図書館。さらに世界各国へのジャンプ。見ごたえありです。彼はロンドンブリッジへ、スフィンクスへ、オペラハウスへ、コロッセオへと降り立ち、東京に出現してアクションシーンを繰り広げもします。映画ならではのスペクタクルなシーンが数々出てきます。巨大銀行の進入不可能な地下金庫から多額の現金を手に入れるなどは・・・もちろん実際には窃盗であり犯罪なのですが・・あまりにも現実離れしているため痛快なだけです。弱者は誰も傷つかないし。もう一人のジャンパー・グリフィン(ジェイミー・ベル)の半生も、ジャンパーを付狙う謎の集団パラディンの成り立ちと目的も興味深い。ヘイデン・クリステンセンサミュエル・L.ジャクソンとの命と誇りor信念をかけた闘いのシーンも「スター・ウォーズ」の興奮を再び!という気がしてファンにはうれしいものです。映画雑誌によれば、この映画がヒットしたら続編が作られることになっているらしいのですが・・・興行的にはどうだったんでしょうか?日本ではさほど話題になっていないようですし、上映期間も短かくて残念だったのですが、アメリカではそこそこヒットしたんでしょうか?私としてはぜひ続編が見たいのですけどね。日本ではこどもだまし的なストーリーだと受け取られたのかもしれませんね。ストーリーはティーンエイジャー向けのようにも思えますが、小さい子には難解そうですし、誰もが自分向きではないと思ってしまいやすい題材なのかもしれません。SF映画はそこが難しいところですね。実際には良質のSF映画だと思います。主人公が超能力を持っているのに万能感よりも、不安や葛藤を抱えている点も文学的で良いです。ロードショーで見逃した人もDVD等ではぜひ見てほしいです。そしてぜひ続編製作の後押しを日本からも。

 それにしてもヘイデン・クリステンセンはちょっと影のある役が多いですね。といっても「海辺の家 」とスターウォーズシリーズとこの作品しか知らないのですが。

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海辺の家

 そんなわけで、映画がとても面白かったので、原作も買って読みました。ところが、ストーリーがまったく違うのです。デイヴィッドが初めてテレポート能力に目覚めるところがまず違います。父親の執拗な暴力・家出後のヒッチ・ハイクでの危険・・・。ミリーとの出会いもデートの仕方も違えば、母親の存在も違っています。初めてのジャンプの行き先は同じ、生活費を手に入れる方法も同じですが・・・、パラディンという存在は出てきません。ネタばれですが本でのデヴィッドの敵はテロリスト・ハイジャッカーとFBIです。デヴィッドの人物造型などは基本的に変わっていないといってよいでしょう。

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 初版が9.11同時多発テロ以前の小説ですので、テロリストとの対峙の仕方がまったく違います。ニューヨークの世界貿易センターも出てきます。今、原作のストーリーそのままには映画化できなかったのもうなづけますが、小説は小説で秀逸な長編SFジュブナイルだと思います。デヴィッドの苦境にはらはらもしますが、一応はハッピー・エンドを迎えるし、オススメです。

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 この映画のために書き下ろされた、前日譚もあるようなので読んでみようと思います。映画のストーリーでのノベライズも著者自身に書いてほしいな。

今気づいたのですが、グリフィン役のジェイミー・ベルって、「リトル・ダンサー」の主役、ビリーの人ですね。パンフレットにちゃんと載ってたのに、3ヶ月以上も気づきませんでした(-_-;)。どおりで、既視感が・・・。まぁ、大きくなって!・・・とおかぁちゃん的感慨を抱いてしまった・・・。思い出せてスッとしました。

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