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2008年2月16日 (土)

「ヒトラーの贋札」

 もう2週間も前のことになってしまいました。いつも映画はシネ・コンで話題の娯楽大作(?)を観ることの多い私ですが、珍しく京都シネマでドイツ映画を観てきました。一人で。よかったです。見るのがつらいシーンも多かったけど、子どもたちもつれて来ればよかったと思いました。他のお客さんたちも大体において年齢層が高く、こういった歴史を繰り返さないためにももっと若い人たちにもこの作品を見てほしいと感じました。

 ステファン・ルツォヴィッキー監督の「ヒトラーの贋札」、ドイツ・オーストリア合作映画です。

 ナチス・ドイツに「ベルンハルト」作戦というものがあったそうです。ご存知でしたか?私は寡聞にしてまったく知りませんでした。ベルンハルト作戦というのは、第2次世界大戦末期、戦局不利を打開するために米英の経済混乱による国力の弱体化を狙ったナチス・ドイツが、ユダヤ人技術者たちを使って、大量のポンド・ドル札を偽造させたもの。この映画は、印刷・植字技術者として、このベルンハルト作戦に携わらされたスロバキア生まれのジャーナリスト・アドルフ・ブルガーの手記『ヒトラーの贋札 悪魔の工房 』を原作としたものだそうです。原作はノンフィクションでも、映画は多分フィクションが多く付け加えてあるのでしょう。登場人物の名前なども実在の人物とは少しずつ変えてあります。ナチスのやり口は汚くて、許せないことですが、こんな作戦を立てた人は、戦争と経済の関係がよくわかっていて、頭の良く働く人だったんでしょうね。もし成功していたら、戦局は大きく変わってしまったわけで、この作戦の遂行を遅らせたユダヤ人技術者たちは、自分たちの身ばかりではなく、世界中の人の少なくない命の喪失を救ったとも言えるかも・・・・。

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 映画は立派なカジノにみすぼらしい男が入ってくるところから始まります。第二次世界大戦直後のモンテカルロ、男のスーツケースには札束がぎっしりと。すぐに舞台は1936年のベルリンの酒場へ飛びます。先ほどの男・サロモン・ソロヴィッチ、通称サリーは紙幣や証明書などあらゆる書類の偽造を生業としています。ある日犯罪者としてつかまり、ユダヤ人として収容所に送られます。地獄のような収容所の中で、サリーはその絵筆の才能を生かしてドイツ兵から便宜を得て生き延びます。ある日ザクセンハウゼン収容所へと移送され、死を覚悟するサリーですが、そこに待っていたのは特別待遇と特別な任務。印刷や美術などの特殊才能を持った者、銀行家などのお金・経済の知識を持った者が集められた贋札工場が、一般の収容所とは別に作られていたのでした。高い壁の外ではユダヤ系の同胞たちが虐待される音も聞こえ、別格の扱いに罪悪感を思えつつも清潔な環境・暖かい食事にホッとする囚人たち。しかしこの任務が成功すれば、ナチス・ドイツの政権は延命し、ますます家族や同胞たちは苦しみが続くことになります。かといって、任務が成功しなければ自分たちの命が危ない。とにもかくにも精巧な偽ポンド札作りが成功したあと、命じられた偽ドル札作りには巧妙なサボタージュを仕掛けますが・・・。

 まず、主人公が書類偽造を生業としていて、いわゆる善人ではないことが意外でした。最初に送られた収容所で、ナチス兵・将校の気に入る絵を描いて自分だけ特典を受けるなど一匹狼的に生きているサリーですが、映画の中で画学生のコーリャやブルガーを庇う人のよさもあります女性にも好かれる本来は好人物なんだと思いながら観ました。サリーを演じるのはカール・マルコヴィクス。現実のサリー、サロモン・スモリアノフの写真の風貌に良く似せてあります。

 原作者をモデルにした、正義感の強い(おそらくはコミュニスト)印刷技師アドルフ・ブルガー。特別待遇を潔しとせず、ナチスの将校に媚びず、不正な作戦を密かに妨害して、気骨のあるとてもかっこいい役だと思えるのですが、パンフレットによると、原作者は来日インタビューで、「実際にはあんなに堂々とサボタージュなんて出来ない状況でした。私も、あんあふうに格好よくできたらよかったのでしょうけれど、現実には、そんなことをしたら即刻銃殺でしたからね」と語っています。彼を演じたアウグスト・ディール(役柄だけでなく、知的な外見もステキです。ストイックな役が良く似合いました。ドイツで最も人気のある俳優の一人だそうです)も「映画のブルガーは善良な人間のようでいて、自分と他人を危険に陥れるようなエゴイストでもあります。正義のために戦う人物を演じるのはとても興味深く・・・云々」と言っています(byパンフレット)。たしかに、フィクションでは英雄的な行動も、現実の極限状態では褒められるべきものではないのかもしれません。こういう状況での人間のとるべき行動や生き方を考えさせられました。

  犯罪の取締官としてサリーを逮捕したヘルツォークが、ナチスの将校としてこの贋札作戦の指揮を取っています。彼は敗戦間際にサリーと取引をして一家のパスポートの偽造をさせます。彼のモデルこそがベルンハルト・クリューガーその人です。

 この調子で書いていたらまた長くなりそうなので、この辺にしておきます。地味ですが良い映画でした。原作や、ベルンハルト作戦をルポした「ヒトラー・マネー 」も読んでみたいと思います。

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 パンフレットに、「解放後の紙幣偽造特別班の囚人達」の写真が載っているのですが、容貌・服装とも、よくみるアウシュビッツなどの強制収容所解放直後の痩せ衰えた囚人たちの悲惨さとはまったく違います。驚きです。

 あとひとつだけ。モンテカルロのシーンでサリーと出会う美女の俳優はドロレス・チャップリン、あのチャーリー・チャップリンの孫でした。事情通ではない私はパンフレットを見てびっくり!

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