出口のない海
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出口のない海 著者:横山 秀夫 |
人間魚雷「回天」というものの存在は知っていたが、飛行機での特攻以上に非人間的なものだとは初めて知った。読む前は、学徒出陣の悲劇を描いた小説だろうと当たりをつけていた。たしかにそうだったんだけど、特に、全体主義の世の中で、個を、確固とした自我を持ったまま生き続ける苦しみがテーマではないかと感じた。
印象的だった文章を少し抜き出すと
「戦争なんて勇ましくも男らしくもない。ただ悲しいだけだ―。」 (日清戦争で父親を亡くした、主人公たちの溜まり場である喫茶店のマスターの胸の中の思い)
特攻に出撃する直前郷里に帰り、友人小畑の戦死の報を聞いた夜、友人の仇を取ってやる、家族を守るために死のうと心に誓ったあと、しばらくしてふと考える主人公「敵艦にも、小畑のようないい奴が乗っていたりするのだろうか。」
同じ艦で特攻に出て行く後輩に主人公が語る(6年生の弟=トシ坊が、『兄さん、立派に死んできてください』と言って自分を送り出したことに触れて)
「六年生だぞ。まだ小学生なんだ。トシ坊はお前よりもっと強い教育を受けている。何の疑いもなく国のために死ぬだろう。そうなったら日本はどうなる?やがて全滅だ。誰も彼もみんな死んで日本という国がなくなっちまう」
あ~、もっと引用して紹介したい言葉がこの後続くのです。ぜひ読んでみてください。
映画「出口のない海」の新聞広告に安倍晋三氏がコメントを書いていて、むむむ?と思いました。憲法第9条を変えたいというタカ派的な考えと、この作品の描きたいものはまったく相容れないんじゃないかという気がして。
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